まだロックが好き

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夢破れたサラリーマンがおめおめと生きている日記

テントウムシ。あれぜったいにロボだろ。

 

テントウムシという昆虫がいる。ノーマルカラーをセレクトすれば赤地に黒の斑点模様。2Pカラーは黄色地。私はつい先日、テントウムシと邂逅を果たしたのだが、その振る舞いに一種の戦慄を覚えた。テントウムシはロボかもしれない! と思ったのである。

 

公園に座していると、袖口に一匹のテントウムシが這っていた。息子が「あ! てんとむし!」と言うので放たれた言葉の先に目を注ぐと、テントウムシは飛翔の寸前だった。その所作がまるでマシンのごときだったである。

 

知ってますか? テントウムシが飛ぶ瞬間のモーションを。六本の節足で大地を踏みしめ、「そこひらく?」とおもう意外性ばつぐんなテントウムシがテントウムシをテントウムシたらしめている赤地に黒の斑点模様のテントウムシ然としたその外殻を開く。ここで一瞬のブレイクがある。時が静止する。

 

瞬きを置いて、外殻から生まれるのは、折りたたまれていた羽である。私には聞こえるはずもない音が聞こえた。内在する精密な機器が唸る起動音を聞いた。歯車が回り、サスペンションが躍動し、ピストンが蒸気をあげ、シリンダーが熱を放ち、オイル圧が上昇している音を聞いた。記載するのも恥じらいだけれど言葉にすれば「ういーん、がしゃん。くいーーーん、がっちゃん」である。

 

そして気がつけばテントウムシは天を駆けていた。私はテントウムシが途次に要するあのブレイクにとてもメカ感を覚える。外殻の開いたとき「ハッチオープンオーケー!」と、テントウムシの体内で赤く光る短い棒をもった作業員が諸手を振っている。急いでいる。しかし壁面に掲げられているスローガンは「安全第一」。黄色と黒の縞々の模様がいたるところに彩られ、危険を示唆している。

 

「両ウィング… オープン!」司令官は発令する。勅命をうけたオペレーターは「ウィング、オープン!」と艦内にアナウンスをする。機械室では作業員が忙しなく、しかし確実に、正確なリズムで律動している。誰ひとり、テントウムシを裏切るものはいない。そうしてウィングが、そのやわらかく透明な羽が白日のもとにさらされ、虹色の輪郭を露にする。

 

ひらいたウィングは、また時間を堰き止める。テントウムシの体内では「発進準備オーケー! 各員セーフティベルトを締めろ!」と号令が響く。そして全員のシートランプが点滅した刹那、司令官は口吻熱く叫ぶ。「テントウムシ… 発進ッ!!」その絶叫とともに明滅するスイッチを、誤打をふせぐためにガラスケースで封印されたそのスイッチを、ガラスの上から、破片を乱無させて、グゥで殴りつける。

 

そして蒼穹に、ひとつの点となってテントウムシは消えた。テントウムシの体内ではすべての作業員が、指令が、オペレーターが、まるでひとつの生命体のように機能して飛翔の準備をしている。ひとつびとつ安全確認をして、各作業に一瞬のブレイクをはさみながら、確実に、正確に、迅速に。

 

そんな夏のある日だった。

てんとうむしの本 (はじめての発見)

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