まだロックが好き

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おめおめと生きている日記

水ぼうそうの予防接種は受けたほうが好い

 

 先日。顔面と明るさとユーモアだけがとりえの妻が、すこぶる哀哀たるさまであった。最愛の息子が水ぼうそうを罹患してしまったのである。

 

 水ぼうそうに感染すると、からだのランダムな場所に豆粒のごとき痒疹が発生し、壮絶な瘙痒感をおぼえる。また、ウイルス性のため人体の防衛機能が発動し、高熱をともなうこともあると聞く。

 

 遅かれ早かれ、だいたいの子どもは感染するようである。じゃあしゃあねぇや、ってものであるが、ひとつたいへん憂悶すべきことがあった。翌日が息子の保育園で開催される、おゆうぎかいであった、ということだ。

 

 なぜこのタイミングなのか。天を呪った。頃日、息子は、おゆうぎかいで披露されるとおもわれる七人のこびとの一節を、嬉々とした破顔をうかべながら歌唱していたのである。はいほー、はいほー、しご~とがすき~。うでを振り下ろすようなそのダンスの振り付けは、いまでも眼前に浮かぶ。

 

 おれは、息子をたくさん愛そう、とおもった。たのしみにしていたおゆうぎかい。たくさん練習して、たくさん笑って泣いたあの練習の時間。それは発表会当日、おれたち親に巨大な光の塊になってふりそそぐはずだった。

 

 おれたちはそれを見て「よくがんばったね! たのしかったね! パパ感動しちゃった!」みたいなふんいきになるはずだったんだ。そんなあたたかな空気が充溢した未来のなかで、おれたちは、というか息子はその存在のすべてを首肯されるべきだった。

 

 その絶好の機会が、うたかたのように消えてしまった。おれたちはどうやらずいぶん、長い間夢を見ていたようだな。なまあたたかい未来への感触が、この肌に残っていた。

 

 消えてしまった未来のぶん、たくさん愛そう。そう思った。だから抗生物質もチョコのアイスであげた。しかもレディボーデンという高級アイスを誂えた。お薬にはチョコアイスが好いらしい。ミルクティーもたくさんあげたし、仮面ライダーもたくさん観た。

 

 しばらく軟禁生活がつづいた。だが、ありがたいことに建国記念日をふくむ三連休をまたいでいたため、仕事はあまり休まずにすんだ。

 

 三連休の終わりには、ほぼ治癒していた。じつは水ぼうそうの予防接種を二度もうけていたのである。そのためか、軽症ですんだようだった。

 

 「ぶつぶつだからおそとであそべないんだよね!」と息子は言っていた。近所の子どもたちに感染すると悪いので、親たちの「ようたくん、どうしたの?」という問いに事情を説明した。

 

 したらみんな「えっ!? いまのうちにうつしてほしい!」との要請をしてきた。そういうもんなのか。と思ったが、話を聞くと水ぼうそうの予防接種もうけていないようである。

 

 「いまのうちにやっちゃったほうがラクだから」と言っていた。そうかもしれない、とおもった。おれたちのように、おゆうぎかいを反故にしないためにも、なにげない日常のなかで、棘の道を歩いておくべきなのかもしれない。