まだロックが好き

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おめおめと生きている日記

前向き駐車でお願いしますとあったのでポジティブに駐車した

 

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 中学の時分、やたら「オッケー、オッケー」という教師がおった。異常なまでに嫌われておった。しかし、あれは生徒の考えを首肯する旨があったのではないか。それほど教育においてポジティブは肝要なのではないか、ということに今気がつきました。すばらしい先生ですね。嫌いになってすいませんでした。

 

 映画を観賞しに市民文化会館に参った。息子との日曜。新緑にきらめく五月の晴天であった。十時から上映開始だったのだが、九時半から開場する。こういうとき九時半に着くように算術し拙宅をでるのか。それとも十時の上映に間に合うよう権謀し拙宅をでるのか、というもんだいに右顧左眄し、まったくもって心労絶えず、白髪をまたふやした。結句は十時につくように出立した。

 

 そうすると、時間に不安のあった小心翼々たる人民が先着しており、むろん駐車スペースは殷賑を極めておった。よって第四駐車場まで車を使役させられたのだが、そこは民間人の邸宅が隣接するパーキングであり、「前向き駐車でおねがいします」と白地を赤で染め抜いた文字が記載されていたのである。

 

 一般的に「前向きにいこう」などと発言するさい、もちろん人類の骨格上、ひとは前を向いて歩行するのが常住である。なにをあたりまえのことをぬかしやがる、とちょっぴり業腹にもなるが、実はそうではない。その「前向きでいこう」というのは、いわば精神面、つまりアティチュードに対する意思表示なのである。

 

 ポジティブの対義語にネガティブというものがある。江湖ではそのネガティブ勢という勢力が横溢し、「なにをやってもだめだ」という禍々しいマイナスなオーラを放っているため、経済は不況がつづき、出生率も下がり、若者は職をうしない、いま、世界は暗黒の時代を迎えているという。

 

 なんたる悲劇的な世界であろうか。このままじゃあかん。あかんのだ。ゆえに政府は、ポジティブを推奨しなければならぬ、と気がついた。もっとも効果的なのは税金を投入し、ポジティブ手当て、というものをつくれば良いが、そうもいかぬのは、長引く不況により政府国家も疲弊している。よって、まともな判断ができぬのである。

 

 そうして苦肉の策の果てに敢行したのが、この「前向き駐車でおねがいします」などに見受けられる「前向き推進ポスターによるサブリミナル政策」である。なんたる愚作であろうか。なんたるくさった政府であろうか。迷走しているのである。

 

 おれは、ふざけるな、とおもった。しかし、冒頭のポジティブ効果というのもあながちあなどれんなぁ、などとおもい、ここはいっちょ、ポジティブに駐車してみっか、とおもったのである。

 

「いいね。そのハンドルさばき。最高だよ。なんてったって腕に浮かぶ血の管がダンディ。最高にダンディ。それにこのアクセルワーク。なんなんすかほんと。妻と子が安心して座っていられるような安定した徐行。荷重移動の鬼だね。いまは見えないけどその背中には、鬼、という背番号がえがかれてるんじゃないっすか? ほんとは豆腐屋だったりして。倉庫にハチロク隠してんじゃないの? あー! そこそこ! その両端の均等なスペースの確保も神が舞い降りてる。神パークじゃん。ほんと。ね? 最高。おまえの駐車最高! ヒューッ!」

 

 前向きパークによって、おれはいつもより巧いぐあいにパーキングができた。やるなポジティブ政策。オッケー! オッケー! ほーんと、オッケー!