まだロックが好き

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おめおめと生きている日記

おれのヒーロー像はクレヨンしんちゃん

 

 おれが五歳のとき、とんでもないパンクヒーローが出現した。それが「クレヨンしんちゃん」というアニメの主人公、野原しんのすけであった。

 

 おれのしたいことをすべてしんちゃんがやっていた。大人の理不尽を衝く。それは社会の明文化されていない闇に光をあてる行為だった。しかも、それはただの理路整然ではなく、諧謔味をもちいたウィットに富んだ反駁であり、五歳のおれは「こうなりたい」とおもった。くっそかっこよかった。

 

 そのしんちゃんの声優である矢島晶子さんが、しんちゃんの声を降板なさるらしいのである。

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 赤心を吐露させてもらえば、ショックだったし、かなしかった。ブコメなどをみると、「しんちゃんの声は永遠に変わらないとおもっていた」と書かれていて、ほんとマジそうなんだよ、ってなって、ほんのすこしの涙を目じりに溜めた。

 

 声優というのは、人物に魂を吹き込むものであって、すげぇな、とおもっている。矢島さんのすげぇのは野原しんのすけの人格が、そのひとことひとことに如才なく行き届いているところだとおもう。

 

 クレヨンしんちゃんのオープニングエンディングテーマ集を持っているのだが、歌もやっぱすごい。歌をうたっても野原しんのすけなんだもの。「オラはにんきもの」とか「バカッポでGO」とか、「とべとべおねぇさん」とか、ほんとに矢島晶子ではなく、野原しんのすけであって、リズムのはずしかた、音符のはずしかた、調の伸ばしかた、すべてにおいて野原しんのすけという人格が存在しているとおもっていた。

 

 だから、ずっと矢島晶子さんの声だと信じていたかった。そんなことを言いつつ、おれはいつからかクレヨンしんちゃんを観なくなったけれど。それでも映画はときおり観ていたし、野原一家は日本の日常にどこかしらひそんでいるので、忘れたことは無かった。

 

 初期の放送からその声は、というか表現方法はかわっている。飄々と恬然としていたしんのすけの人格もかわってきたゆえだろう。かつては教育委員会より峻烈な批判もあびていたが、いまはどうだ。日本の家庭的アニメとして膾炙しているじゃないか。それゆえにキャッチーな無辜なる少年の声へと変化していった。

 

 さいきん、三歳児と映画のドラえもんを観ることがおおいのだが、ときどき「ドラえもんはそんなこといわねぇよ」みたいなことをかんじることがある。そういうとき声優陣は意見を言えるのだろうか、と不安になる。作者よりも、監督よりも、そのキャラクターを知っているのは声優だとおもう。

 

 おれの知っているかぎりでは、しんちゃんにそんな科白はない。演出面で「あざといな」とおもうことはある。「あっぱれ戦国」という映画でしんちゃんが号泣するシーンがあったが、しんのすけはこんなふうに慟哭しねぇよ、なんておもった。しんのすけは「ブタのひづめ」的にただひとり、しずかに紅涙をしぼるんだよ、なんておもったりしたけど、まぁ時代の変化とかもあるし、「あっぱれ戦国」は名映画なので文句はありません。

 

 五歳のときに現れた同年のヒーローは、いつまでもおれの、曇りも暮れもしらない蒼穹の太陽として、ずっと君臨している。おれがパンクロックなどを好きになったのもクレヨンしんちゃんの原初体験があったからなんじゃねぇのか、なんておもっている。それほどおれの人生に根をはっている。

 

 クレヨンしんちゃんというフォーマットは、日本の家庭をえがくフォーマットとして、これからも放映されていくようにおもう。きっとおれの息子は次世代のしんちゃんの声をしんちゃんだとおもうだろう。だけど、おれの太陽はずっとあの声のまま、能天気に、悠然としているだろう。ありがとうと言いたい。

クレヨンしんちゃん スーパー・ベスト 30曲入りだゾ

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